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モンスター社会における貨幣流通の謎

敵モンスターは無限に出てくるようにみえる。しかし、彼らは種族によりいつも一定の金額の貨幣を所持している。このことは古くて新しい謎であるが、これを社会経済的に解明したリポートが極秘にリリースされたので概略を紹介する。

敵キャラがいつも同じ金額の貨幣を所有しているところから、モンスター社会が共産主義体制下に置かれていることを想像している方も多いだろう。なるほど、共産主義者が神の代理人を自任する宗教家たちを攻撃するのも、先日逝去された法皇が執拗に反コミュニズムを唱え冷戦終結に多大なる影響を及ぼしたのも納得できるというものである。

彼らの経済活動は極単純なものにとどまっており、食糧生産力はほとんど0でしかないのだが、どこからか尽きることなく沸いてくる彼ら自体が対価の必要のない食糧と労働力となっている。もちろん、他の動植物や人間も食料とするようであるが、実態は殆ど知られていない。ともかく、モンスターたちが貨幣経済制度を必要とする理由は全くといっていいほど見当たらないのである。

では、尽きることのないモンスター社会の貨幣流通の源泉とはいったいどういったものであるのだろうか?

我々は先ほど、我々の社会を脅かしつつあるモンスター社会について体系的な研究を行っている Research Institution for Monsters' Society (RIMS、通称民名書房)による詳細なレポートを入手した。これによって、人間社会では到底容認できないほどの規模の信用創造がモンスター達によって行われていることが判明したのである。

いうまでもないことだが、信用創造とは、ある経済主体から銀行に預金された金額のうちのいくらか(法定準備率による)だけを銀行内に置いておけば(法定準備金)残りは自由に貸し付けられるというもので、これにより市場に流通される通貨量がどんどん膨れ上がっていくことをいう。


モンスターたちがこの地上に現れた当初、彼らは原始的な社会しかもっておらず、単独行動のみを行っており、群れを作っているように見えてもなんら組織的行動を行うものではないと考えられていた。このようなモンスターの生態はもちろん至る所に見られるのであるが、こうした「単独行動種」はモンスター社会のヒエラルキーにおいて下位に位置するものであり、上位のエリート階層には組織的行動の利点を理解し、人間社会の経済社会的システムをモンスター社会の発展および人間社会の破滅の手段として取り入れ活用しようとしはじめた者がいるというのである。

この運動を推進しているモンスターのエリートたち(一説にはガーゴイルら)が、人間達から巻き上げた金を原資に The Bank of Goodness ( BOG 、通称モンスター銀行)と呼ばれる金融機関を設立したという。元々モンスター達は通貨など必要としていない。彼らの多くはただ所有欲を満たしているだけである。よってこのような銀行など本来はなんの価値もないはずであるが、彼らは機械的に通貨を銀行に通すことで信用創造を行い、通貨流通量を拡大させ、インフレを生じさせて人間の経済社会を混乱に陥らせようとしているのだという。彼らは法定準備率など設定しない。モンスターたちは通貨を必要としていないので、誰も「預金を引き出させろ」と要求しないのだから。彼らは理論上は無限に通貨の供給量を増やすことができるのである。人間にあっさり殺されるスライムなどの弱小モンスターにも小額ではあるが金をもたせているのは、人間社会における貨幣流通量を増やしていくためであるとリポートはいう。さらにリポートではモンスターが人間の技術者を集めて貨幣や紙幣を組織的に偽造しているという別の報告を取り上げている(民名書房刊 「モンスター達の組織的関与が疑われる偽造通貨の流通に関する分析とこれに関するいくつかの政策提言」)。


ここで浮かび上がってくるのが一部の商人達(闇商人と呼称する)がモンスターと結束して利益を得ているという許しがたい裏切り行為である。モンスターたちは必要もないのに商人達を好んで襲い、金品を奪って通貨を手にいれているが、闇商人の一部がモンスターから奪った貴重品を買戻し、それを高値で人間のマーケットに流通させて莫大な利益を上げているほか、人間の食糧を買占めモンスターに売りさばき恩を売っているとの報告もある。さらに、BOGが闇商人に信用創造によって生まれた巨額の金を貸し付け(闇商人達を側面支援するために金利はマイナス200%に及ぶという試算もある)、我々の実体経済に大きな影響を与えているという。モンスター銀行がつぶれようがモンスター達にとってはなんの影響も及ぼさないが、この銀行の影響が人間社会の中に可及的速やかに波及すれば我々は恐ろしい事態に直面するだろう。少なくとも、我々の経済を我々自身の力だけでコントロールすることは非常に困難になると思われる。早急に闇商人の実態を調査し、法整備を急ぐべきだとリポートは結論付けている。しかし一方でモンスターとつながっている闇商人は安全に町から町へと旅することが出来る数少ない人間であるために、流通経済上もはや欠くことのできない社会的インフラとなってしまっているという指摘もある。


相互信頼にその根拠をおく人間社会の盲点をつく形で表れたこのようなモンスターの行動はまさに「悪魔との契約」を我々に強いるものに他ならない。急ぎBOGの機能を停止させさらに魔王を倒してくれる勇者を探し出すべきであろう。幸い、必要なお金ならモンスターが限りなくたくさん落としてくれるのだから・・・・・・・
by reko_pietro_msx | 2005-04-07 21:15 | 小説
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