カテゴリ:小説( 3 )

モンスター社会における貨幣流通の謎

敵モンスターは無限に出てくるようにみえる。しかし、彼らは種族によりいつも一定の金額の貨幣を所持している。このことは古くて新しい謎であるが、これを社会経済的に解明したリポートが極秘にリリースされたので概略を紹介する。

敵キャラがいつも同じ金額の貨幣を所有しているところから、モンスター社会が共産主義体制下に置かれていることを想像している方も多いだろう。なるほど、共産主義者が神の代理人を自任する宗教家たちを攻撃するのも、先日逝去された法皇が執拗に反コミュニズムを唱え冷戦終結に多大なる影響を及ぼしたのも納得できるというものである。

彼らの経済活動は極単純なものにとどまっており、食糧生産力はほとんど0でしかないのだが、どこからか尽きることなく沸いてくる彼ら自体が対価の必要のない食糧と労働力となっている。もちろん、他の動植物や人間も食料とするようであるが、実態は殆ど知られていない。ともかく、モンスターたちが貨幣経済制度を必要とする理由は全くといっていいほど見当たらないのである。

では、尽きることのないモンスター社会の貨幣流通の源泉とはいったいどういったものであるのだろうか?

我々は先ほど、我々の社会を脅かしつつあるモンスター社会について体系的な研究を行っている Research Institution for Monsters' Society (RIMS、通称民名書房)による詳細なレポートを入手した。これによって、人間社会では到底容認できないほどの規模の信用創造がモンスター達によって行われていることが判明したのである。

いうまでもないことだが、信用創造とは、ある経済主体から銀行に預金された金額のうちのいくらか(法定準備率による)だけを銀行内に置いておけば(法定準備金)残りは自由に貸し付けられるというもので、これにより市場に流通される通貨量がどんどん膨れ上がっていくことをいう。


モンスターたちがこの地上に現れた当初、彼らは原始的な社会しかもっておらず、単独行動のみを行っており、群れを作っているように見えてもなんら組織的行動を行うものではないと考えられていた。このようなモンスターの生態はもちろん至る所に見られるのであるが、こうした「単独行動種」はモンスター社会のヒエラルキーにおいて下位に位置するものであり、上位のエリート階層には組織的行動の利点を理解し、人間社会の経済社会的システムをモンスター社会の発展および人間社会の破滅の手段として取り入れ活用しようとしはじめた者がいるというのである。

この運動を推進しているモンスターのエリートたち(一説にはガーゴイルら)が、人間達から巻き上げた金を原資に The Bank of Goodness ( BOG 、通称モンスター銀行)と呼ばれる金融機関を設立したという。元々モンスター達は通貨など必要としていない。彼らの多くはただ所有欲を満たしているだけである。よってこのような銀行など本来はなんの価値もないはずであるが、彼らは機械的に通貨を銀行に通すことで信用創造を行い、通貨流通量を拡大させ、インフレを生じさせて人間の経済社会を混乱に陥らせようとしているのだという。彼らは法定準備率など設定しない。モンスターたちは通貨を必要としていないので、誰も「預金を引き出させろ」と要求しないのだから。彼らは理論上は無限に通貨の供給量を増やすことができるのである。人間にあっさり殺されるスライムなどの弱小モンスターにも小額ではあるが金をもたせているのは、人間社会における貨幣流通量を増やしていくためであるとリポートはいう。さらにリポートではモンスターが人間の技術者を集めて貨幣や紙幣を組織的に偽造しているという別の報告を取り上げている(民名書房刊 「モンスター達の組織的関与が疑われる偽造通貨の流通に関する分析とこれに関するいくつかの政策提言」)。


ここで浮かび上がってくるのが一部の商人達(闇商人と呼称する)がモンスターと結束して利益を得ているという許しがたい裏切り行為である。モンスターたちは必要もないのに商人達を好んで襲い、金品を奪って通貨を手にいれているが、闇商人の一部がモンスターから奪った貴重品を買戻し、それを高値で人間のマーケットに流通させて莫大な利益を上げているほか、人間の食糧を買占めモンスターに売りさばき恩を売っているとの報告もある。さらに、BOGが闇商人に信用創造によって生まれた巨額の金を貸し付け(闇商人達を側面支援するために金利はマイナス200%に及ぶという試算もある)、我々の実体経済に大きな影響を与えているという。モンスター銀行がつぶれようがモンスター達にとってはなんの影響も及ぼさないが、この銀行の影響が人間社会の中に可及的速やかに波及すれば我々は恐ろしい事態に直面するだろう。少なくとも、我々の経済を我々自身の力だけでコントロールすることは非常に困難になると思われる。早急に闇商人の実態を調査し、法整備を急ぐべきだとリポートは結論付けている。しかし一方でモンスターとつながっている闇商人は安全に町から町へと旅することが出来る数少ない人間であるために、流通経済上もはや欠くことのできない社会的インフラとなってしまっているという指摘もある。


相互信頼にその根拠をおく人間社会の盲点をつく形で表れたこのようなモンスターの行動はまさに「悪魔との契約」を我々に強いるものに他ならない。急ぎBOGの機能を停止させさらに魔王を倒してくれる勇者を探し出すべきであろう。幸い、必要なお金ならモンスターが限りなくたくさん落としてくれるのだから・・・・・・・
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by reko_pietro_msx | 2005-04-07 21:15 | 小説

野良猫の夢

夢・・・・なんと甘美なる響きをもつ言葉であろうか。

誰もが経験する普遍的な体験でありながら、そのメカニズムは殆ど解明されていないという。
つかの間の恍惚感、目覚めたときのあの喪失感、この世のあらゆる娯楽と比較しても、これほどに質の高い享楽はほかに存在し得ないだろう。

神たる至高の存在があるとすれば、このような自然の恩恵が他の動物に存在しないなどというような不公平を許すであろうか。というわけで、近所に住む典型的な雑種の血を引く、定食屋のゴミを夜な夜な漁る主犯と目されている野良猫の寝顔をとくと観察することにした。

彼はどの猫もやるような例の就寝スタイルで、いささか退屈な表情で眠っている。

時々ひくひくと口元を動かしている。おそらく、夢の中で美味しいご馳走にありつけたのだろう。神に感謝の意を示すために右の前足をふらふらと上げたり下げたりしていることからも、私の推測が正しい事が判断できる。盗人のようにみえて、なかなか信心深いものだ。

右の後ろ足をゆっくりと円を描くように動かし始めた。
これは何の儀式だろう?
私は、仕留めたえさをしばらく殺さずにいたぶるという猫の習慣を思い出した。
ということは、彼はまた新しい生贄を神に捧げているのであろう。貪欲な猫である。信仰は人間の本性を巧みに隠蔽する社会的装置であるという言説は、またこの猫にも当てはまるのだ。

彼はここで大げさに伸びをしてみせた。彼の満腹感がここから見て取れる。
彼はすっかり全世界を征服したような大きな気分になっていると断言できる。
見よ、彼の得意げな表情を。
ひげをピンと張って自らの威を示しているではないか-
時々口をあけてごろごろと音を立てているではないか-
時々思い出したように顔を持ち上げてあたりを見回すようにしているではないか-

今の彼の精神にケチをつけることなど、どんな恥知らずでも進んでしようとは思わないだろう。それは、エセ宗教家に説教するほど馬鹿げた、味気ないものであろうから。


私は、神の公平さと野良猫のささやかな幸福にすっかり満足して、
その場を静かに立ち去った。
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by reko_pietro_msx | 2005-01-19 03:34 | 小説

独房の陥穽

暇だから小説でも書きます。続きはまた。。。

 看守の巡回による足音が何度私の脳髄に響いたことだろうか。私ははっきりと、その音が
私の鼓膜を震わせ、脳髄を微妙に痙攣させ、小さく軽く不安定で脆弱なベッドと共に私の全身まで振動させているのを感じていた。この病的に神経質な感覚は、その看守が私に最後の宣告を告げに来たのかもしれないという懸念によって増幅されていたのだった。

 私は衰弱の極みにあった。私はこの小さな独房ですでに3年もの時間を過ごした筈であった。この間私は外に出ることはもちろん、読書や、その他この地上に存在するありとあらゆる娯楽や暇つぶしを禁じられ、ただ単に何も為さないという精神的拷問に耐えねばならなかった。食事は僅かな水と炭水化物しか与えられず、常に飢餓状態を維持するよう施されていたのだった。このため私の全ての感覚は極端に鋭敏になり、看守が立てる物音以外にやり場のない感覚器官はあてどなく彷徨い、めくるめく幻想や常軌を逸した空想に我が精神を追いたて、それが更に鋭敏に過ぎる感性を呼び醒まして私を疲労の極致に至らしめるのであった。

 私は宗教裁判にかけられたのだった。合理主義に目覚めた人間が一体どうすればキリストが神の使いなどという荒唐無稽な話を信じられるであろうか。もし神がいるとすれば、それは疑いもなく、神自身が作り出した完全性に従って動く機械のようなものでなければならない。しかし、そんなことはもはやどうでもよいのだ。フランス国王とキリスト教会は私の本を出版後即座に発禁処分とし、印刷された本全てを火にかけ、私に火あぶりによる死刑を宣告した。「彼の名は雨に呪われ、風に呪われ、太陽の光に呪われる。彼は死後もこの世のありとあらゆるものから呪われ、また神の国の全てのものから呪われる。」このように宗教裁判で宣告を受けている内に、私の精神は打ち砕かれ、ふらふらと議場を彷徨い、そして気を失っていたのであった。
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by reko_pietro_msx | 2004-12-29 02:03 | 小説